そろそろ運動会シーズンですね。
今回は短距離走を専門的に行っている人以外が運動会で活躍するための「すぐできる」けれど「あまり知られていない」速く走る走り方を徹底的にお教えしたいと思います。
姿勢「身体をまっすぐにする」
ポイントまとめ
・走るときの基本姿勢は横から見て耳、腰、膝、足が一直線上にある「まっすぐな姿勢」
・加速中は「足で地面を押し切った瞬間」、加速した後は「腰の真下を足が通過する瞬間」にまっすぐな姿勢になっていればOK
・加速した後のまっすぐな姿勢は「上半身が突っ込み過ぎないように」意識するだけでOK。膝をピーンと突っ張って足を突き刺すように接地してしまうのはダメ。
詳しく知りたい人へ
競走となると、気持ちばかりが先行して上半身が突っ込んで前に倒れすぎてしまうこと、反対に力んだり疲れたりしてあごが上がってしまうことが多いです。
しかしこれらは効率が悪いことが知られています。基本姿勢は「まっすぐ」。つまり、横から見て耳、腰、膝、足が一直線上にある姿勢が効率的なのです。
では基本姿勢を身につけましょう。まずは立った状態で身体をまっすぐする練習です。方法を2つあげておきます。
・壁に背をぴったりくっつけた姿勢
・手を上げて伸びをして、すとんと手を戻した姿勢
少年
スタート練習をする山縣選手。耳、腰、膝、足が一直線上にはない
コーチ
身体をまっすぐできているか確認すべきなのはいつ??
・スタート後~加速している間
スタートから加速していく間は身体の軸を倒して前傾姿勢をとっています。この区間では、「足で地面を押し切った瞬間」に身体がまっすぐになっているようにしましょう。
足で地面を押し切った瞬間→身体はまっすぐになっている
スタートから一歩目のフォーム(地面を押し切った瞬間) 出展:ベネッセ教育情報サイト
地面を押し切る前の段階→身体はまっすぐになっていない
スタート練習をする山縣選手(接地の瞬間)
・加速が終わった後
加速が終わってトップスピードになったとき、身体の軸は起き上がっていてほぼ直立しています。これ以降の区間では、「接地して足が腰の真下を通過する瞬間」に身体がまっすぐになっているようにしましょう。
接地して足が腰の真下を通過する瞬間→身体はまっすぐになっている
トップスピード区間での桐生選手のフォーム(接地して足が腰の真下を通過する瞬間)
足が腰よりも前にあるポイント→身体は一直線になっていない
トップスピード区間での桐生選手のフォーム(足が腰よりも前にあるポイント)
まっすぐな姿勢はおおよそでOK?
少年
上の桐生選手のフォームをよく見てみましょう。膝が完全に伸びきってはいませんよね!?加速した後に身体をまっすぐするという意味では「上半身が突っ込み過ぎないように」意識するだけでOKです。桐生選手のフォームを参考に、少しだけ前傾して体重を前にかけるようにしましょう。
腿(もも)の動かし方
ポイントまとめ
・小学生まで、あるいは普段はあまり運動しない人→腿をしっかり上げて走るように意識しましょう。
・普段から部活などでダッシュする機会が多い人→腿を高く上げるよう意識するとむしろ逆効果。高さよりも腿を前にすばやく振り出すことを意識しましょう。
詳しく知りたい人へ
実は数十年前までは腿が高く上げたほうが速く走れると信じられていました。しかし、現在は腿を上げる高さとトップスピードは関係がないことが判明しています。
走るスピードは、ピッチとストライドで決まりますが、腿を高く上げると腿がより大きな軌道を描くようになるためピッチが落ちてしまうのです。
足をより上から力強く踏みおろすことでストライドが大きくなるようにも思えますが、一般的にはその効果はピッチが落ちるデメリットを上回ることはないと思われます。むしろ腿をとにかく高くと意識すると、身体が上に弾んでしまい進行方向へのロスにつながるる可能性があります。
事実、元100m日本記録保持者の朝原選手は「多くのトップ選手が足の軌道を小さくした(つまり、腿を余分に上げたり必要以上に後ろに蹴り上げ過ぎない)コンパクトな走りを目指している」とテレビで発言しています。
これらを踏まえると、速く走るためには「腿を高く上げることは意識しないほうがいい」とい考えられるでしょう。
しかし、子供やスポーツを普段あまりしていない人はその限りではありません。
なぜでしょう?実は先ほどは腿の高さは走る速さに関係ないといいましたが、正確には速く走るために「最低限この程度は腿が上がっている必要がある」というボーダーがあるのです。
私たちが走れるのは地面に力を加えるからですよね。そして、地面に力を加えることができるのは接地時のみです。
では腿があまりあがっていない状態から地面に大きな力を加えられるでしょうか?答えはもちろんNO。そういう理由でしっかりと地面を捉えるために最低限の腿の高さが必要になります。
筋力がまだ発達していない小学生以下や普段運動をしない人は何も意識せずにダッシュしようとすると、この最低限のボーダーよりも腿が上がらないことが多いんです。
だから、腿をしっかり上げるよう意識して、余裕をもって接地を行えるようにすることが大切なんですね。
腕ふりのポイント
ポイントまとめ
①スタートで一歩目を踏み出す際、大きく、速く振る
②加速してきたらリズミカルに接地とタイミングを合わせてコンパクトに振る
③脇をしめてまっすぐに振るよう意識する
④手は生卵を握るように。あるいは小指のみに力を入れること
⑤手首が動かないよう極力固定すること
詳しく知りたい人へ
腕振りで加速する??
腕振りは走る際に人が生み出すエネルギーの20%ほどを生み出しているといわれます。これは腕を振りによって地面により大きな力を加えることができるからです。試しに体重計に乗って腕振りをしてみましょう。腕が真下を通過する際に、本来の体重よりも重く表示されるはずです。これは腕振りを通じて地面に力を加えられたことを意味しています。この力をうまく使うことでより速く走ることができるのです。しかし効果的に振らないと逆効果になってしまうことも…スピードを上乗せするための効果的な腕の振り方をしっかり学びましょう。
効果的な腕の振り方
①スタート一歩目はとにかく「大きく、力強く」振りましょう
腕振りは大きければ大きいほど生み出すエネルギーが大きくなります。そこで、スタートから一歩目で飛び出すときには、力いっぱい振り出します。意識としては「すばやく、一気に振りぬく」イメージです。一歩目に踏み出す距離が数十cm力伸びるはずです。
スタートから一歩目のフォーム(大きな腕振りに注目!) 出展:ベネッセ教育情報サイト
ただし土のグラウンドの場合にはちょっと注意。土のグラウンドの場合、一歩目ですべってしまう可能性があるんですね。(これは、地面に加える力が大きすぎて地面と靴との間の摩擦力をこえてしまうためです)なので、スタートする前に練習をして滑らないか確認して、滑らないよう踏み込む力と地面を蹴る方向を調整しておきましょう。
②加速してきたらリズミカルに接地とタイミングを合わせてコンパクトに振る
どんなに腕振りで大きなエネルギーを生み出したとしても、それが地面に伝わらなければ意味がありません。つまり、腕振りで力が加わる腕が身体の真横を通過するタイミングを接地とあわせる必要があります。
さて、腕振りは大きいほど、振るのにかかる時間も長くかかります。なので、スタート後にいつまでも大きく大きく、と腕を振っていると接地に腕が振り遅れてしまいます。(加速していくにつれてピッチが上がっていきます)そういう理由で、スタート以降は徐々に腕振りを小さくコンパクトにしていくのです。
リズミカルに接地とタイミングを合わせるようにして振っていきます。
また、2歩目以降は、腕の角度が90度となるよう意識しましょう。そこまで角度にこだわる必要はありませんが、目安としては前に来たときに60度、後ろにきたときには120度くらいです。
③脇をしめてまっすぐに振るよう意識する
脇をしめてまっすぐに腕振りをしないと体が捩れてぶれてしまいます。これはスピードを生み出さず、エネルギーを使うだけの無駄な動きです。試しに手を横に大きく広げた状態でその場で腕振りをして見ましょう。身体が捩れておへそが左右を向いてしまうことが分かるでしょう。
では次に身体の横を脇をしめてまっすぐ通るように意識して腕を振ってみましょう。若干、前に腕がきた時に身体の内側に、反対に後ろに腕があるときには外側に来ませんでしたか??
これは人体構造上、自然なことなのでそのままにしておきましょう。見た目の上で完全にまっすぐ振るようにすると不自然な動きとなり、ロスにつながります。大切のなのは「意識の上でまっすぐ振ること」です。
なかなかまっすぐ振れないという人は次のイメージで腕振りをしてみましょう。
・腰の辺りを腕で擦るイメージ
・身体の後ろに太鼓があって、それを肘でたたくイメージ
・反対に身体の前に太鼓があってそれを撥でたたくイメージ
④,⑤手は生卵を握るように。あるいは小指のみに力を入れること、手首が動かないよう極力固定すること
手をぎゅっと握って走ると力が出そうですか?実は逆に力みにつながりスピードが出ないんです。かといって全く力を入れないと手先が暴れてロスにつながります。なので正解は無駄な動きが出ないように固定するくらい力を入れることです。
その他
しっかりウォーミングアップをすること
ウォーミングアップをしっかりすることでパフォーマンスをより高めることができます。陸上競技選手が取り組んでいるウォーミングアップのメニューを簡単に紹介します。
・ジョギングや動的ストレッチでしっかり身体を温めること
・レース前30分くらいに、実際に走る距離の半分程度の距離を全力で走ること
これら2つに取り組んでライバルに差をつけましょう。
静的ストレッチはしすぎないこと
静的ストレッチを長い間しすぎると瞬発力が低下することが最近の研究で判明しています。ウォーミングアップとして取り入れるなら1種目あたり15から30秒以内にしましょう。
号砲がなるまでの間隔をつかもう
もしあなたよりも前に走る組がいるのであれば、ヨーイからドンまでの間の間隔がどの程度かしっかり聞いておきましょう。「これくらいで合図がくる!」と目星をつけておくことで、ライバルより先にスタートを切ることができるでしょう。スタートのシミュレーションをしておくのも大事です。「リアクションタイムを測定して反射神経を鍛えるゲーム」でいいイメージを掴んでおきましょう。