厚底ランシュー「NIKE ヴェイパーフライ4%」は買いか?一般人への効果を徹底考察。

大迫傑選手が日本記録を、キプチョゲ選手が世界記録を更新したとき履いていたシューズが今注目を集めています。

ナイキの「ズーム ヴェイパーフライ4%」マラソン界のレーザーレーサーとも言われる常識破りの厚底シューズです。

この記事では、

  • ヴェイパーフライの効果
  • 効果を支える構造
  • 一般人が履いても効果があるか

の3点についてまとめました。

長くなるので最初に結論を書いておくと、キロ4ペースで走れるなら一般人にも効果が見込めます。

普段からランニングをされる方であれば、一度は試してみて損はないと思いますよ!

ズーム ヴェイパーフライ4%の効果

一般的にランニングシューズには

  • 厚底はクッションが衝撃を吸収するので疲れづらい。一方でスピードが出づらい。
  • 薄底は、軽くスピードが出やすい一方で、クッションがないので疲れやすい。

といった傾向があります。スピードとクッション性のいいとこ取りは難しいってことですね。

そんな常識を打ち破ったのがヴェイパーフライなんです。

つまり、スピードが出るし疲れづらいというのです。

一体どういうことなんでしょう!?もう少し詳しく効果をみてみましょう。

下り坂を走るような感覚でスピードが出る

ランニングのエネルギー効率を4%高める(ランニングエコノミーを平均で4%高める)これは言い換えると勾配が1~1.5%の下り坂を走っているのに相当する※といいます。

※南アフリカ・フリーステート大学の運動生理学者ロス・タッカー談

シカゴマラソンを制したゲーレン・ラップ選手が「まるで下り坂を走っているみたい」と表現しているように、感覚的にも体が勝手に進む感覚になるようです。

厚底による疲労感の低減

エネルギー効率の高さは言い換えると、疲労しづらいということ。

実際、フルマラソンの日本記録を樹立した大迫 傑選手は「薄い靴だと疲労が残ることがあるが、厚底はそこが軽減される。」と語っています。

では、こういった効果はどこから生まれるのでしょうか?

ヴェイパーフライの効果を支える構造

ヴェイパーフライの効果を支えるのは特徴的な厚い靴底。その隠されたヒミツを見ていきましょう。

厚底のサンドイッチ構造に隠されたヴェイパーフライの秘密

ズーム ヴェイパーフライ4%の秘密は、最も厚い部分で約4cmもある厚底ソールの中にありました。その構造がこちら。ソールはカーボンファイバー製プレートを特殊素材で挟みこんだ3層構造になっています。

この

  1. カーボンプレート
  2. フォームの特殊素材

がヴェイパーフライの性能を支えているんです。

秘密1. カーボンプレートが生む推進力

まずはカーボンファイバー(炭素繊維)のプレート。バネの様なはたらきをして体を前に推し進めます。仕組みは短距離選手のスパイクと同じですね。

ヴェイパーフライのソールはつま先が競り上がっています。この形状のソールを履いて接地すると、中のカーボンプレートが曲がってもとの形に戻るときに体をグイッと推し進めることになるんです。

秘密2. 軽くて反発に優れる特殊クッション

一見、カーボンプレートの方が凄そうですが、むしろ効果の大半を支えているのはフォームに使われる特殊素材の方

「われわれの研究所では、シューズがランニングによるエネルギー消費を平均4パーセント減らしました。その内訳は、約3パーセントがクッションに由来するもので、約1パーセントが炭素繊維プレートによるものだと考えられます」と、クラムは言う。

なんと、航空宇宙産業で用いられる素材(ズームXフォーム)で、軽さと反発性に優れるんです。

MEMO
実はカーボンプレートって実は新しいものではなかったりもします…

「カーボン自体は特に新しいということはありません。ナイキは過去にもカーボン素材を使用したシューズを出したことがありますが、その時はあまりうまくいかなかったんです。」(加部さん)

具体的に見ると反発性は
87% ヴェイパーフライ
76% Adios Boost 2(adidas)
66% Zoom Streak 6
つまり地面に加えた力を10%以上も多く返してくれます。言い換えるとストライドが伸びるということ!

もう一つのポイントが素材の軽さ。重さは公表されていないものの、男性用モデルの25.5cmで174g、28cmのモデルでも200gは切ってきます。

例えば、サブ3選手向けのズーム ストリーク 6でも192g (メンズサイズ28cm)だから、ナイキのシューズをはいている人は厚底といえど、重さを感じることはないでしょう。

長くなったのでまとめると、新素材のフォームとカーボンプレートが出会ったことでヴェイパーフライが実現できたんですね。

「反発性のあるカーボンで推進力を保ちつつ、それに負けないクッション性と軽さを保てる」(ナイキ・広報担当者)

ズーム ヴェイパーフライ4%の実績

理屈は分かったけど…本当に効果は出ているのかなぁ?

驚くことに2018年の世界のメジャーなマラソン大会の表彰選手の75%が、ヴェイパーフライ系列のシューズを履いていたんだ!

以下に例を挙げてみましたが、マラソンのトップ選手は大半が使っているといって差し支えない状況です。

例えば、2018年のシカゴマラソンでは、優勝したモハメド・ファラー選手から5位の選手まで、全員がヴェイパーフライ4%を着用していました。

選手で見ても、

  • エリウド・キプチョゲ(フルマラソンの世界記録保持者)
  • ケネニサ・ベケレ選手(5000m・10000mの世界記録保持者)
  • シャーレーン・フラナガン(五輪4会出場のメダリスト)
  • ゲーレン・ラップ(リオ五輪・銅メダリスト)
  • エドナ・キプラガット(世界陸上・女子フルマラソン連覇)

など多くの選手がヴェイパーフライを愛用しています。

国内も見てみましょう。

まずは、前述のフルマラソン日本記録保持者の大迫選手。加えて前日本記録保持者の設楽悠太選手も着用していますね。

鈴木亜由子選手(普段はアシックス)、佐藤悠基選手(普段はミズノ着用)など、ヴェイパーフライ4%を機に、他メーカーからナイキに乗り換える選手も出てきています。

また、箱根駅伝でも多くの選手が利用。2018年の往路を制した東洋大学では10人中8人が履いていた他、出場大学の選手全体では40人近い選手が着用していました。

その結果、ナイキのシューズ占有率は2017年の4位から躍進。トップシェアとなりました。

ヴェイパーフライ 利用選手の声

ベケレ「ふくらはぎの筋肉が痛まない」

ベケレ選手は「クッション性と長距離を走ってもふくらはぎの筋肉が痛まない点」を好んでいると語っています。

大迫 傑「沈むけど、その分きちんと反発があって非常にいい靴」

もともと中距離出身でスピードに定評がある大迫選手。「スピード勝負になったとき、特にありがたみを感じる」「短い距離から(マラソンに)来た選手は蹴る要素が大きいから武器になる」と語っています

エリウド・キプチョゲ「完璧です・・・本当に完璧です。」

アフリカ勢の選手は普段、土の走路で練習を積みます。なので、路面の硬いロードが苦手。「硬い路面でも、クッション性を保ちつつ、推進力も発揮できるシューズ」アフリカ勢選手からのこういった要望を元にヴェイパーフライは作られました。

ヴェイパーフライ4% 一般人にも効果はある?

ネット上にはヴェイパーフライ4%はトップ選手以外には効果がないのでは!?という声も。

https://twitter.com/kazuzun1969/status/1061536557406908416

実際のところどうなのでしょうか、研究結果を調べてみました。

コロラド大学ボルダー校にて、ヴェイパーフライ、ナイキのZOOM STREAK 6、アディダスのシューズ(Adios Boost 2)の性能を比べた研究があります。

この研究からキロ4のペース以上で走れるランナーは走法に関わらず恩恵を受けられることが分かっています。

  • ナイキの他のシューズ、アディダスのレーシングシューズに比べてエネルギー消費が4%少なくて済む
  • リアフット(かかと着地)走法のランナーには、ミッドフットやフォアフット走法のランナーと比べてわずかによい効果が出たが、あまり大きな差はなかった
  • 1km約4分20秒、3分50秒、3分20秒のペースでも節約できた走行時のエネルギー消費量は同じだった※1マイルの走行時間が6分53秒、6分02秒、5分21秒で測定

さらに、研究リーダーのウーター・フーグケイマーは「試験はしなかったが、被験者が1マイル5分で走ろうと10分で走ろうと、同じくらいのランニングエコノミーの改善が見られるのではないか」と語っています。なので、キロ4に達していないランナーも試してみる価値はあるかもしれません。

ちなみに通例、マラソンのエネルギー消費量は1.5%改善したらよいものとされるそうなので、このことからもナイキ ヴェイパーフライの凄さが伺えますね…

「われわれの研究所では、ランニング時のエネルギー消費量の変化を研究しています。ここでは1.5パーセントでも効果が出れば十分だと考えられてきたのですが、それが4パーセントとなると、ものすごい効果だということになります」

この研究の論文はSports Medicineに掲載されておりウェブ上でも内容は確認できます。興味のある方はどうぞ。

ヴェイパーフライは「ドーピング?」という声も

このように注目を集めているヴェイパーフライですが、一方で反則なのでは?という声も上がっています。

現在のIAAFの規則第143条では、シューズについて「使用者に不正な利益を与えるようないかなる技術的結合も含め、競技者に不正な付加的助力を与えるものであってはならない」といった表現があります。

ヴェイパーフライが、この「不正な利益」にあたるのでは?というのです。

ただし、「不正な利益が明記されていないこと」「シューズはIAAFが承認するといっている一方で手続きが不明」だったりするので、実際のところルールが曖昧で事実上黙認となっています。(しっかりしてくれよIAAF…)

ただ、個人的にはこの技術革新は歓迎すべきではないかと思っています。そもそもカーボンプレートは短距離では認められているわけですし反則とする意味が分からない。

歴史を振り返ってみても、陸上トラックが土トラックからから合成ゴムに、棒高跳びのポールが竹からグラスファイバーに変わるなど。これまでもこれからも、陸上競技の記録の変遷は技術の進歩とともにあるわけです。

ナイキ ヴェイパーフライ4%の欠点

いいとこ尽くしに見えるヴェイパーフライですが、いくつか欠点もあります。

耐用期間は短め

ズームヴェイパーフライ4%の耐用距離は160kmほど。一般的なランニングシューズは500~600kmほどなので短めです。フォームがヘタってきて、反発性が失われてしまうことが原因です。

値段が高い

定価で26000円とランニングシューズとしては割高。ただし、試合用のシューズとして考えれば妥当な値段でしょう。たとえば、短距離のスパイクでいえば、3万円のクロノインクス、3万5000円のクロノオニキスなどはさらに高い価格です。

履き心地が独特

ヴェイパーフライの履き心地は、沈み込んで押し返される感覚があり、独特。それゆえ、素足感覚にこだわりがある選手には向かないといえます。

ただ、履き心地で敬遠するのはナンセンス。なぜなら、あの大迫選手ですら走っているうちに馴染んできたというのです。効果を実感するためには、まず試してみるのが一番といえるでしょう。

薄底に親しんでいた大迫選手は当初、その構造に驚いたというが、「もともと、こうでなければ、というこだわりはなく、走っているうちに効果を発揮できるようになった」。

また、大迫選手はこのシューズを履いたトレーニングでフォアフット走法を身につけたと語っています。なので、フォアフット走法に興味のある方にもおすすめです。

品薄で手に入りづらい

ソールの材料が入手困難で丁寧に作っているため品薄とのこと。一部、同じ材料を使っているズーム ペガサス ターボが品薄でないところを見ると在庫を絞っているだけな気もします。

「ズームXフォームの素材は通常のルートとは異なり、航空宇宙産業の分野から取り寄せているので、大量生産に向いていないんです。それと、多くの工場で扱ってしまうと、情報防衛の問題もある。限られた工場で、1つひとつ丁寧に作っているので、どうしても数が限られてきます」(ナイキ勤務者)

 ナイキ ズーム ヴェイパーフライ 4%ラインナップ

ナイキ ズーム ヴェイパーフライ 4%

現在は、レッド(ブライト)・ブルー(ロイヤル)・水色(アイスブルー)・黒(オブシディアン)のラインナップがあります。

ナイキ ズーム ヴェイパーフライ ”フライニット”

アッパーソールがニット素材になったズーム ヴェイパーフライ 4%です。

重さは数グラム程度しか変わりませんが、通気性に優れ、暑い日などもムレないのがうれしいですね。

ヴェイパーフライ エリート

ヴェイパーフライもう一つの欠点が水を含むと重くなること。これを克服したのがヴェイパーフライエリートです。値段はヴェイパーフライよりさらに高く…言うのも憚られてしまうほどです。

いずれはオーダーカラーに対応する!?

こんな噂もなされていますが…どうなんでしょうね??